そこは、商店街に訪れた人たちの馬車がたくさん停まっているところ。

ピカピカに磨かれた車体から察するに、高貴な家の馬車ばかりだと思える。

アルフレッドは、馬が繋がれて出発の準備がされている馬車を指差した。


「これが、俺の馬車だ」


装飾のないシンプルな黒い車体は車輪なども新しく、あまり使用感がない。

そばに三十代後半くらいの馭者らしき男性がおり、シルディーヌを見てうれしそうに微笑んだ。


「お待ちしていました。ささ、どうぞ」


うやうやしく扉を開けられ、アルフレッドにも「乗れ」と言われ、どこに行くのか尋ねる間もなく、シルディーヌはエスコートされるまま馬車に乗り込んだ。

中は背の高いアルフレッドに合わせて作られたのか、天井が高くて椅子も大きく、足元が広くてとてもゆったりとしている。

奥の席には、白地に赤い花柄のかわいいクッションが置いてあった。

アルフレッドらしくないインテリアで驚き戸惑っていると、「お前はそこに座れ」と促され、シルディーヌはふかふかのクッションに身を沈めた。

ふんわりした座り心地が、商店街で歩き疲れた体にとても優しい。

アルフレッドの席にクッションはなく、シルディーヌの席にだけある。

わざわざ準備してくれたのだろうかと甘い考えが浮かぶが、いつも置いてある可能性もなくはない。