「まったく、こんなに目が離せんとは……」


大きなため息が吐き出されて、シルディーヌはぎゅっと抱きしめられた。


「どこか痛いところはないか?」

「ないわ。でも強いて言えば、ぶつかった腕が少し痛いくらいよ」

「……そうか、分かった。ちょっとここで待ってろ」

「え? アルフ、どこへ行くの」


アルフレッドはシルディーヌを残し、矢のごとき速さで太った男の走り去った方へ駆けていく。

すぐに人並みにまぎれて見えなくなったが、間もなく「ぐえぇっ」とカエルを踏んだような声が聞こえてきた。

同時に大勢がざわめく声もし、道を歩いていた人の動きがぴたりと止まった。

みんなが息をのんで見つめているような雰囲気が伝わってくる。


「……まさか、アルフレッドがなにかをしているの?」


シルディーヌの胸に嫌な予感が広がる。

そう、アルフレッドは敵を完膚なきまでに叩きのめすという鬼神の騎士団長なのだ。

しかし、シルディーヌがぶつかって吹っ飛んだだけで、アルフレッドのおかげでケガもしていない。

だから太った男性は、敵やすごい悪人というわけではないだろう。


「まさか、ね……?」


一抹の不安を感じながらアルフレッドの戻りを待っていると、ざっと人が分かれて一本の道ができた。

その真ん中を、太った男を担いだアルフレッドが悠々と歩いてくる。