いつもと変わらない無表情でこっちに歩いてくる遊佐は、両手にクレープを持っていた。
だから鞄を押し付けたのか。

「ほら」

目の前で渡されたクレープはずしりと重さがある。
覗き込むと絞られたホイップクリームの上に縦半分に切られた苺が密に乗せられ、キャラメルが格子を描くようにかけられていた。
甘い匂いに自然と口角が上がり、食欲が刺激される。

「わーい。ありがと。遊佐も食べるの?」
「悪いか」
「あ、それ白玉抹茶ティラミスじゃん一口欲しい」
「ほんと図々しいなお前は。…ほら食え」

ずいっと差し出された鮮やかな濃緑のパウダーにぱくっと直接かじりついた。

「お前、せめて手で持って食べろよ…」
「おいしーい!遊佐、これ美味しいよ」
「ったく…」

呆れた表情で手元に戻したクレープにかぶりついた遊佐は私の倍くらいの大きさを一口で食べた。
文句を言わないでクレープを奢ってくれるだけじゃなく、新しいまま味見をさせてくれるなんて優しい。

「遊佐も食べていいよ」
「別にいい」
「ほらほら交換だから」

半ば無理やり口元に持っていくと遊佐はまた小さなため息を吐き、クレープを持った私の手の上に自分の手を重ねて口元に引くとかじった。

「遊佐一口大きい」
「うるせぇな。お前が差し出したんだろ。そもそも俺の奢りだ」

遊佐がかじって形の崩れたクレープを口に入れた。
苺の甘酸っぱさとクリームの甘味、キャラメルの香ばしさにうっとりする。

「でもこういうのあれだねぇ、カップルぽいっていうの?」
「お前に言われてもな」
「えー私に何か問題が?」
「問題っつーか疑問しかねぇよ」
「遊佐からの質問なら何でも答えるよ」

そう言うと遊佐は黙って私の方を向く。
読めない無表情のままで。

「NGなし」
「…考えとく」

呟いてまたクレープを口に放り込む。
それを見て私もクレープに視線を遣るとさっきよりも大きな口を開けてかぶりついた。

風が大きく吹き、もう終わりかけの桜が目の前で舞っていた。