校門を出て並んで駅へ向かう。
えりか以外の誰かと一緒に帰るなんて相当珍しいことだ。
少なくとも高校に入学してからはない。

「こういうの放課後デートって言うんでしょ」

ちらりと上目遣いに遊佐の顔を確認すると一瞬こっちに視線を投げただけで遊佐の反応は変わらなかった。

「何とでも言え」
「つまんなーい。嘘、そんな遊佐が気に入ってるから」
「はいはい」

このフラットな遊佐の表情はほとんど変わらない。
一番多感な時期ともいえる高校生男子としてこの手のからかいに全く反応がないとはかなりレアな性格だ。

「遊佐って家どの辺?」
「駅から3駅下り方面」
「じゃ逆だね。電車で見かけないわけだ」
「そもそもお前の登校時間ギリギリだろ。駅からでも見たことねぇよ」
「確かにねー」

遊佐はいつも私が教室に着くとすでに席に座っている。
クラスの誰かと話すところを見たことはない。

「遊佐って友達いるの?」
「お前には言われたくない。…うちのクラスにいないだけで、他にはつるんでるやついる」
「そっか。まぁ私より居そうだね」
「あっさり認めんなよ」

いつもよりも少し言葉数の多い遊佐と話す内に駅はすぐに着いた。
商業施設も駅に隣接していて、ここまで来ると人並みはけっこう増える。

「遊佐甘いもの好き?」
「普通」
「ふーん。あ、あれだ。『シャルランクレープ』」

駅のロータリーに続く一角にワゴン型のクレープ屋が見える。目立つ赤い店構えに旗が立っていて、制服の違う女子高生が窓口に数人立っていた。

横断歩道を渡ってすぐに店の前に来る。
ワゴンの横に立てられている看板を見つけ、選びきれない程種類があるメニューを眺めた。

「うーん、苺キャラメルスペシャルか、フルーツパフェデラックス…限定の白玉抹茶ティラミススペシャルもいいなー」
「迷うことなく一番高いラインかよ」
「だめ?」
「…好きにしろよ」
「じゃあ、苺キャラメルスペシャル」
「はいはい。これ持ってあっち座っとけ」

そう言って遊佐は鞄を押し付けるとワゴンの窓口に向かった。
後ろを振り返り、ちょうど座れそうな高さの樹の根元をレンガで囲った一角に腰かける。
遊佐の鞄を隣に下ろして何となく周りを見回した。

陽が傾き始めたとは言ってもまだ明るい。
行き交う人々は誰かと連れ添って笑いながら歩いている。
その人は特別な人なんだろうか。
特別ではなくても、この時間を共有したいと思えるような相手なんだろう。

遊佐は、何なんだろう。

今までに居なかった、初めて興味を持った同世代の男子。
不思議で、とにかくなんか一緒に話してると楽しいと思える。

これが"男友達"ってやつなのか。
自分の中になかったカテゴリーを見つけて納得した。

答えが出るのと同時に、遊佐がこっちへ歩いてくる。