家の前まで着き、明かりが付いてない様子に両親は不在であることが分かる。
兄が鍵を取り出してドアを開け、中に入った。
「お母さんも当直だったっけ」
「うん。父さんも帰らないし今日は二人だ」
「わーい。お兄ちゃん何する?」
「英語の課題するんだろ」
「そうでした」
とりあえずリビングに向かい、「お茶いれるね」と声をかけてキッチンに向かう。
冷蔵庫を開けるとき、ピッと指が引っ掛かって痛みが走った。
「いた…っ」
「真知?」
指を見ると爪が少し割れている。血を見ることがなくてほっとしているといつの間にか近くに来ていた兄に唐突に右手を取られた。
「どうした」
「大丈夫、少し引っかけただけ」
私の右手を左手で添えるように持ち上げ、割れた中指の爪をすっと撫でる。爪の状態を見て珍しく兄が眉を潜めた。
「こっちにおいで」
そのまま手を取られてリビングのソファに座るよう促される。
近くの棚から爪切りを持ってくると私の前にしゃがみ込み、右手に手を添えた。
「…自分で切れるよ」
「だめだ」
静かな口調なのに有無を言わせない。
黙って手を預けるとパチン、という音を立てながら欠けた爪が揃えられていくのを見つめた。
そのまま右手の指の爪が全て均一に切られていく。
私より余程器用だと思いながら見ていると右手が下ろされ、左手を取ると同じようにリズミカルな音が響いた。
兄の癖のない綺麗な前髪がさらりと動く。
伏せられた睫毛の長さを見下ろしながら右手を伸ばし、兄の頭に手を触れた。
パチン、という音が止む。
「真知、危ないからじっとして」
「…動いてないよ」
下から覗き込まれる瞳にぞくりと背筋が震えた。
逆らえなくて右手を引っ込めるとまた顔が俯いてパチン、という音が響いた。
そうやっていつも視線だけで私をコントロールする。
だけどそれが嫌じゃない。
小指まで綺麗に切り揃えられ、終わりかと思うと兄の手がちょうどネイビーのハイソックスを辿るようにふくらはぎからかかとに下ろされ、くすぐったさに身動ぎする。
「なに?くすぐったい」
「足も」
「え?」
「出して」
どうやら足の爪も切らせろということらしい。
「…脱がせて」
ちょっとした好奇心で言ってみる。
顔を上げた兄の眼鏡が光を反射し、一瞬見えなくなったあと向けられた眼に心臓が跳ねた。
「…なんてね。足はいいから…って」
するりと靴下をくるぶしまで下ろされ、ふくらはぎの裏を支えられて一気に脱がされる。
「お風呂入ってないからやだ」
距離を取ろうと足を手前に引くもののすぐに捕まえられる。
「汚いってば」
「真知に汚いところなんてない」
「何言って…」
「懐かしいな。昔を思い出す」
力で敵うはずがなく、かかとを掴まれて足を引かれると親指の爪をパチンと切られた。
仕方なく足の力を抜いて身を任せる。
「…何が?」
「真知が8歳のとき、自分で足の爪切ろうとして怖くてできなくて、俺に頼んできた」
「覚えてない…んっ」
爪を切るのに横の指に触れられてぞくんと反射的に足が動く。
「動くと危ないよ」
「だ…って、くすぐったい…っ」
顔を覆って耐えようとする。
足先を意識しないように、はぁ、と息を吐いた。
顔を覆った指の隙間から兄を見下ろす。
妹の足元に跪いて靴下を脱がして爪を切る。
背徳的な情景に知らず口元に笑みが浮かんだ。
お兄ちゃんは、私のものだ。
兄が鍵を取り出してドアを開け、中に入った。
「お母さんも当直だったっけ」
「うん。父さんも帰らないし今日は二人だ」
「わーい。お兄ちゃん何する?」
「英語の課題するんだろ」
「そうでした」
とりあえずリビングに向かい、「お茶いれるね」と声をかけてキッチンに向かう。
冷蔵庫を開けるとき、ピッと指が引っ掛かって痛みが走った。
「いた…っ」
「真知?」
指を見ると爪が少し割れている。血を見ることがなくてほっとしているといつの間にか近くに来ていた兄に唐突に右手を取られた。
「どうした」
「大丈夫、少し引っかけただけ」
私の右手を左手で添えるように持ち上げ、割れた中指の爪をすっと撫でる。爪の状態を見て珍しく兄が眉を潜めた。
「こっちにおいで」
そのまま手を取られてリビングのソファに座るよう促される。
近くの棚から爪切りを持ってくると私の前にしゃがみ込み、右手に手を添えた。
「…自分で切れるよ」
「だめだ」
静かな口調なのに有無を言わせない。
黙って手を預けるとパチン、という音を立てながら欠けた爪が揃えられていくのを見つめた。
そのまま右手の指の爪が全て均一に切られていく。
私より余程器用だと思いながら見ていると右手が下ろされ、左手を取ると同じようにリズミカルな音が響いた。
兄の癖のない綺麗な前髪がさらりと動く。
伏せられた睫毛の長さを見下ろしながら右手を伸ばし、兄の頭に手を触れた。
パチン、という音が止む。
「真知、危ないからじっとして」
「…動いてないよ」
下から覗き込まれる瞳にぞくりと背筋が震えた。
逆らえなくて右手を引っ込めるとまた顔が俯いてパチン、という音が響いた。
そうやっていつも視線だけで私をコントロールする。
だけどそれが嫌じゃない。
小指まで綺麗に切り揃えられ、終わりかと思うと兄の手がちょうどネイビーのハイソックスを辿るようにふくらはぎからかかとに下ろされ、くすぐったさに身動ぎする。
「なに?くすぐったい」
「足も」
「え?」
「出して」
どうやら足の爪も切らせろということらしい。
「…脱がせて」
ちょっとした好奇心で言ってみる。
顔を上げた兄の眼鏡が光を反射し、一瞬見えなくなったあと向けられた眼に心臓が跳ねた。
「…なんてね。足はいいから…って」
するりと靴下をくるぶしまで下ろされ、ふくらはぎの裏を支えられて一気に脱がされる。
「お風呂入ってないからやだ」
距離を取ろうと足を手前に引くもののすぐに捕まえられる。
「汚いってば」
「真知に汚いところなんてない」
「何言って…」
「懐かしいな。昔を思い出す」
力で敵うはずがなく、かかとを掴まれて足を引かれると親指の爪をパチンと切られた。
仕方なく足の力を抜いて身を任せる。
「…何が?」
「真知が8歳のとき、自分で足の爪切ろうとして怖くてできなくて、俺に頼んできた」
「覚えてない…んっ」
爪を切るのに横の指に触れられてぞくんと反射的に足が動く。
「動くと危ないよ」
「だ…って、くすぐったい…っ」
顔を覆って耐えようとする。
足先を意識しないように、はぁ、と息を吐いた。
顔を覆った指の隙間から兄を見下ろす。
妹の足元に跪いて靴下を脱がして爪を切る。
背徳的な情景に知らず口元に笑みが浮かんだ。
お兄ちゃんは、私のものだ。