ひらりはらりと舞い落ちる桜の花びらを彼女は優しい瞳で追いかける。
そんな彼女の行動を見て浮かんだ感情は怒りだった。
ただの桜にそこまで熱視線を送り何度撮っても同じ風景にしかならない桜をカメラに収める。
きっと彼女の写真フォルダには似たような退屈な写真が並べられているのだろう。隣にいるオレには見向きもしない。
嫉妬に似た醜い感情を隠しきれず舌打ちを零せば、ビクリと肩を揺らし震えた声でどうしたの?と頭の悪い質問が飛んでくる。
「どうしたのって、彼氏ほったからしといてよくそんな言葉言えるよねー。どうせしばらく歩いても同じなんだから写真なんて無駄じゃない?」
でも、と続ける彼女の手首を強く握り歩き出す。
花見シーズンという事もあり沢山の人が行き来する中人混みの多い所が苦手なオレは再度舌打ちをする。
ったく、せっかくの休みでデートしてあげるって言ったけど、やめとけばよかった。
家なら彼女と二人っきりになれるましてや、邪魔されることなんてない空間だったらこんな気持ちにはならなかったのに。全部、彼女の所為だ。
「どこに、行くの…?」
「どこって。家に決まってるでしょ」
「……もう、帰るの?」
普段彼女はオレの言いつけを守って1日のほとんどを家の中で過ごしている。
もちろん、誰の目にも止まらないように鍵のかかった二人だけの部屋で。それなのに彼女は外に出たいというのだから、気分が悪くて仕方ない。
「何?ほかに何処か行きたいわけ?」
「…せっかく見に来たんだし、もうすこし見よう?」
ふわりと頼りなく微笑む彼女は今にも何処かに消えてしまいそうで、手首を強く握る。
掴まれた場所が痛いのか顔をしかめる彼女を見て、いい気味だと思う。いくら部屋に鍵をかけても、彼女の姿を確認しない限り安心しないあの空間は酷いほどに息が詰まりそうになる。
それでも目の前にいる彼女はオレの気持ちなんて無視して、危険を犯したいというのだ。
「オレ、桜嫌いなの。アンタに言ってなかったけど、本当は来たくなかったんだよね」
一番綺麗なときだけチヤホヤされて、綺麗なまま散ることもない桜は無くなってしまえば人々は離れてしまう。
それでも、彼女は片時も離れず側に居てくれた。そんな彼女をいそいそ逃すわけにはいかない。
「……行くよ」
「ごめんなさい、」
「意味のない謝罪なんて聞きたくないんだけど」
「…連れてきてくれて、ありがとう」
「ふうん。今度お礼?ふふ、アンタって馬鹿だよねー」
ずっとオレのそばに居てくれるなら、一生不幸にさせてあげる。
オレには綺麗な空気は似合わないから、早く帰ろう。息も出来ないほど狂いそうなあの場所に。
少し困ったような彼女の表情は、紛れもなくオレがさせているのだと分かれば気分も良くなり、今度は優しく手を握る。
手離すのはオレからって決めてるから、その時はオレのいない世界で絶望に浸ったアンタの綺麗な顔を見下ろすのも悪くないかな。
儚いほど酷い今を、夢で終わらせないで。

