父は茜を見ないまま話し続ける。


「健介という名前だった。」


司も知らない事実だ。



「生まれてすぐに誘拐されて、見つかった時には冷たくなっていた。」



父の表情に悲しみが見えるような気がした。



「結婚してしばらくしてやっと授かった命だったんだ。でも授かるまでの苦労が嘘のようにあっという間に消えてしまった。」