『いんでねーの。別に、それで』

「いんですか、そんなんで」

『人なんてそんなもんだよ。ゆっくりで、ふらふらして、回り道して、寄り道して、道まちがえて戻って、気まぐれに気長に。そんでも“自分”で居続けないとな』

「真っ直ぐ居続けらんないのかねー」






ポケットから風船ガムを取り出したアオは一気に3粒口に放り込んで早速ぷくーと膨らませる。パチ、という聞き慣れた軽快な音が耳に届く。









『ハルが寄り道したからこそ、気づいてやれた落し物があんじゃねーの』

「・・・・・・」

『自分の経験ってさ、辛くて苦しくて追い込まれたものほど誰かのための優しさに変換できんだから、人って本当にすげーよな』






こいつ、なんでこんな言葉がするする出てくんだちくしょうその通りだ。




私がきっと勝部先輩に片想いをしていなかったら、簡単に距離を縮められない環境じゃなかったら、戸島先輩にああいう風に言えなかったかもしれない。





自分でも気づかない傷に絆創膏を貼って、優しさに変えてくれる言葉をくれるのは、いつだってアオだ。アオは誰よりもそういう人の弱さに鋭い。