『泣きたいならちゃんと泣いて、自分のために。自分の心に嘘つかないで』



すとん、と落ちて、



『周りとかそれよりも、もっと自分を大切にしなきゃ。だって、最終的に自分を守ってあげられるのって自分しかいないんだよ』



じわり、と沁みる。





彼女の一生懸命な声に、彼女の声だけに、俺の心にこびりついた真っ黒なナニカがゆっくりと剥がれ落ちていく。







そういえば、俺は泣いたことがなかった。







もう、泣き方さえ忘れてしまうほどに。ああ、だから俺は壊れちゃったのか。俺は確かに壊されたけれど、壊したのもある意味自分自身だ。





痛む頭をカーテンが揺れる窓へと向けて、彼女達の声に耳をすます。時折風が吹くたびに彼女達のセーラー服が垣間見えた。








『もうほら、取り敢えず泣こう?ね、もしも泣けないなら私一緒に泣くから。日本昔思い出せば私声上げて泣けるから。とにかくおっきな声上げて泣いてやろう』

『ふふっ、なんでそんなに“アオミ”は私を泣かせたいの』

『だって本当は由香が泣きたがってるの知ってるもん。我慢して、堪えるのやめてよ』

『・・・・・・ありがと』







ああ、世界も終わったもんじゃないなあ、なんて、大袈裟な気持ちが湧き上がる。俺の世界は、俺だけの世界はもう、俺1人しかいなくなって誰かに続く道は全て切り離されて、真っ暗になっていた。






それなのに、全く見ず知らずの、偶然に、そこに居合わせただけの、彼女の声に、俺は不意に手を差し伸べられた。