『─────慣れてて、いいの?』
「は、?」
『俺がこういうとこ、慣れててもハルは何とも思わないのってこと』
そっと、アオの手が私の顔の横にくる。掴み所のない淡々とした低い声。読み取れない真っ黒で綺麗な瞳。そんなアオを見つめ返すことしかできない。
ただ、アオがこういうところに、他の女の人と来ているところが今の一連で安易に想像できるようになってしまったのは事実で。それが私にとってやけに不快なことも事実だった。
『なあーんちゃって。来たことなんてねえよ』
「え?」
『男の子はこういうのを馬鹿みたいに覚えちゃう時期があるんです。好きな子を連れてくる時のマナー的な』
ふと、いつもの淡々としたアオに戻る。
『俺は真奈美ちゃんと来たかったんだけどねー。はーい邪魔でーす』
「な、ッいだっ!」
アオは私の横に伸ばしていた手で何かを引っ張りその板が私の後頭部に激突した。
痛みで悶えて、私にぶつかってきたヤツを見る。そこはコートを仕舞う小さめのクローゼットで、アオが扉を開けたようだった。