『ポッキー泥棒はさ、』

「ふざけんなそんな名前じゃない」





ふざけたことをガチトーンに真顔で言ってくるアオが私の隣に来た。ここぞとばかりにその腕を叩く。と、折れたああああとまた騒ぐ馬鹿。





悶絶するアオを横目に、溜息を零しながら髪をくしゃり、と曖昧な心に苛立ちを込めて力強く握る。




部室があるから、きっかけである勝部先輩を忘れられないのかもしれない。忘れたくない思いもある。





「・・・踏み出せない」

『俺の腕はへし折ったけどな』

「うざい」

『ちなみに俺の心も今折れたけどな』





舌打ちを零して、隣で真剣にふざけたことを言うアオをもう一発殴っておく。



アオといつまでもこうして、だらだら、とひたすらアオに甘え続ける私も。おかしな未練を孕ませた私も。何もかも曖昧な私も、この部室と共に消し去りたいとも思う。




「このままじゃ、何もかも手遅れになりそうな気がする。なのに、ずっと甘えていたくなる。こんな自分、大嫌い」





ちくしょう。悲劇のヒロインは大嫌いなのに、正に今の自分だ。悔しい。


隣でアオはいつも私の後ろを歩いているように見えて、もっとずっと先を歩いている。それなのに私はいつまでも足踏みばかりしている。


私の横顔を見つめていたアオが、私を鼻で笑ったように聞こえて、胸に宿った黒いものが思わず外に溢れる。