私は幼馴染みじゃない。ほんの少し。馬鹿みたいにちっぽけで。微々たる。でも誰しもが好きな人になら願わずにはいられない「両想い」をここでいとも簡単に呆気なく、本人にぶった斬られる。



アオはちらりとそんな私を一瞥する。目の前でぐっと意気込みつつも何処か気弱になっている勝部先輩に、ゆっくりと単調な声で問い掛ける。





『あの、好きな人って、』

『え?あ、言ってなかったか、えっと』

「───野球部のマネージャーさん、ですよね」

『え?あ、あー・・・そうなんだよ。俺、やっぱり分かり易いのかなあこんな初対面の人達にもバレバレなのかあ。恥ずかしいな』




初対面だけど、初対面なんかじゃないんです。そんなこと、嬉しそうに恥ずかしそうにはにかむ勝部先輩に言えない。隣でアオが無言のまま、そっと静かに息を飲み込んだ。




私は、空っぽの笑顔で勝部先輩を見つめる。頭も心も追いついていないからか、不思議とちゃんと笑えている。それに、好きな人にはほんの少しでも、恋愛対象だなんて見られていなくても、女の子として“可愛い”と思われたいもの。






「私達、部室がここなんでよく2人で外の部活見てたりするんですよ」

『え、2人?俺も?』




嫌そうな顔をするアオの脇腹を肘で殴る。



「2人!いっつも2人で眺めてるんで、勝部先輩が3年のマネさんと話す時とかだけにやけてるなあとかもちゃんと見てましたよーあはっ、」

『うわ、そうなんだ。それはめちゃくちゃ恥ずかしいなあ。気をつけます』

「そうですね。あはは・・・、」





照れながら白い歯を見せて屈託なく笑う勝部先輩。彼は私が正真正銘ずっと見つめてきた本人なのに、今まで一番遠く感じる。


まだ駄目だ。混乱したままでいたい。早く早く早く言わなきゃ。笑顔が続くうちに。