「あの、青井くん違うの私達っ、」







言葉は何も用意していなかったけど、兎に角言い訳をして、誤解を解いて。なんて、誤解も何も無いのに上塗りした嘘でも何でもいいから彼に伝えて許してもらおうと必死で声を上擦らせた。




だけど、青井くんは唇の端を皮肉そうに持ち上げ、滲む怒りの代わりに笑顔を“つくる”。




青井くんが笑顔を“つくる”と、こんなにも怖いのかと。映画の演技によく観るものと似るそれは本当に怒りを抑え込んだ人がやるとこんなにも恐怖を与えるものなのかと。








『“君”の話なんてどうでもいいって、俺、言ったよね?』








嗚呼、私はとんでもないことをしたのだと、この時ほど思い知らされたことはない。




青井くんは笑顔を“つくっま”まま、私達に2本の網を渡す。それはそれは柔らかく、如何にも紳士な対応で。









『ハルが許したからって、俺が許すと思うなよ。──特に、ハルを傷つけた事に関しては。』









1年生の時からずっとずっと好きだった。好きで好きでずっと、目で追ってた。青井くんの仕草や声、瞳も、気だるげな立ち姿も、全部全部私の胸に詰まって、好きで堪らなかった。


でもそれと同じくらい、青井くんの隣で馬鹿みたいに笑う春井さんが羨ましかった。妬ましかった。そして、春井さんの隣で私には絶対見せない笑顔を浮かべる青井くんにさえ、唇を噛み締めた。