「…あれ、」


無心で歩き続けていたら、いつの間にか知らない森まで来ていて。
…どこだろ、ここ…
無意識に制服のポケットで携帯を探すけど、
鞄の中に入れてきたことを思い出す。


「…鞄、学校だ…」


…もう、ここを歩いてたら自然と死ねるかなぁ…
この森深いし。
誰も来ないよね、きっと。


「…お腹空いたな…」


死にたいって思っててもお腹は空くのか…
そう思いながら、さらに進もうとしたら
頭の上に感じた、ポツッという感覚。


「え、雨…」


雨は、瞬く間にザァザァ降りだして。
私の髪と服を容赦なく濡らしていく。


「やっば…」


走りながら森の中を進んで行く。
すると、1つの建物が目についた。


「…わ、大きい…」


目の前にそびえ立つ、大きくて立派な洋館。
壁には蔦が全体に絡みついて、
所々蜘蛛の巣が張っている。

…こんな雑草まみれだし、誰もいないよね。

雨宿りにはちょうどいい。
びしょ濡れの格好のまま私はその洋館のドアを開けた。


「…失礼します…」





ギィィィ…と軋んだ音を立てて開いたドア。
あの外観だったら、どうせ中も同じだろうと思っていた私の予想は簡単に裏切られて。


「え…」


大きなシャンデリアがいくつもあって、
レッドカーペットはもちろん、螺旋階段もある。
世界史の授業で見た、中世のヨーロッパの宮殿みたい。


…シャンデリアが点いてるってことは、住んでる人がいるってことだよね?
もし見つかったら、私不法侵入で訴えられるんじゃ…
それ以前に入ってもダメか。

窓の外を見ると、さらにひどくなっている雨。
ゴロゴロ…と、雷の音も聞こえる。


…でも、訴えられるよりはマシか。
そう思って、ドアを開けようとすると。





「…あれ、」

開かない。

「え、何で…!?」

両手で引っ張っても、びくともしない扉。
鍵なんてどこにも見当たらないのに。
ガタガタと音を立てて揺れるだけ。

「~…っ、もう…何で開かないの!!」


無我夢中で開けようとしていると、突然後ろから聞こえた声。





"いらっしゃい。"