何度言っても、やっぱり無視して藤紀は外に出た。

ホテルの外は大騒ぎだった。何台かの消防車と慌ただしく動き回る消防士。
救急車も来ていて、怪我人なんかを見ていた。

そしてホテルから避難した人達と野次馬…

藤紀はそれらを避けるように比較的人の少ない方へ向かい、そこであたしを降ろした。

「藤紀…」

「オレは…藤紀じゃない…」



  「ドンッ」


「きゃっ…」

藤紀は、地面を殴った。彼の拳が傷つき、血が流れた。

「畜生…!なんで…なんで凛なんだ…っ!」

そう呟いた彼から一粒の涙が溢れ落ちたのを、あたしは見た。

そのまま
彼は何処かへと消えていった。

あたしはその後ろ姿をただ見ている事しかできなくて…引き留める事もしなかった。

やがて

あたしの涙で滲んで彼の姿は見えなくなった。

どうして?

どうしてなの?

「藤紀…っ!…う…っく…ぅぇ…ん…」

あたしはその場で泣き崩れた。

悔しいのか憎いのか
自分の感情を表現できない。

でも涙はあとからあとから溢れ出して止まらない。

ただ、ぼんやりと思い出していた。



『じゃ…子供が生まれたら何て名前つける?』

『…【陸】って名前』