その声は明らかに寝起きで、絶対に寝ぼけてたと思う。

オレの気持ちが見えて言ったんじゃない…

それに何日も留守していたヤツが帰ってきたから条件反射的に『お帰り』って言っただけなんだ…

ただ、それだけ。

そう思おうとしたのに

オレの胸は熱くなった。



今一番欲しかった言葉を

凛がくれた。


オレはここに居ていいんだって思わせる…
待っていてくれたって感じさせる言葉だった。

下心も期待も何もない一言…
だけど今のオレには大事な一言



 『藤紀…お帰り』



こんな単純な事で救われちゃうんだ。

気のきいたどんなセリフよりも胸の奥に残って消えない。


凛はちゃんと起きて少し慌てていた。

「と…藤紀…ゴメンね、勝手に部屋に入ったりして…すぐ出て行くから」

ベッドから立ち上がろうとした凛の手を
オレはとっさに掴んだ。

「行かなくていい…」

「え…?藤紀…どうしたの?何かあった?」

「…」

この子だって色々とツラい事を経験してる。

なのに、いつだって素直で生きる事に必死で、オレはいつも後ろめたくなるんだ。


だけど彼女が好きだった




オレは涙を見せないように凛を抱きしめた。