オレがずっと欲しくて欲しくてたまらなかったもの。

【藤紀】は全てを持っていた。

オレがどんなに望んだって、どれだけ犠牲を払ったって手に入れる事ができないものを彼は生まれながらにして手にしていた。

当たり前のように

呼吸するのと変わらないくらい自然に。

それらを全て捨てて死んだ北川藤紀…

そしてオレは思いがけずそれを手にいれた。

自由と

偽りでも『家族』と呼べるもの。

暖かい家

勉強できる環境

生活費を心配しなくていい生活…

望みは叶い、欲しかったものは手に入れたのに、やっぱり全てオレのものじゃなかった。

全てを捨てたようでいて、彼は何一つ失ってなんかいなかった。

…オレ、バカみたいだな…

何年も経って気付くなんて。

この世から居なくなっても…彼はどこかに存在してる。ただ会えないだけで…

オレの手の中には何にも残ってなかった。

やっぱり…オレがそんな幸せを望むのはムリなんだろう。

人殺ししたからとかって事よりも以前から、オレは人並みの幸せが欲しかっただけなのに

誰かに…会いたい…


急に孤独が襲ってきて人が恋しくなって

オレは終電に乗り、サラと凛がいる部屋へと戻った。