奴は私の気配に気づくといつものように吐き気のする微笑みを浮かべる。



「美瑚、おかえり」


「……お裾分けとかならいらないから帰って」



どれだけ冷たく突き放しても微笑みながら近付いてくるのが奴の嫌なところ。



「今日はキャベツともやしが安かったから野菜炒めでもどうかな?」


「野菜炒め!?みーこ聞いた!?
今日の夕飯野菜炒めだって!というかこの人誰!?」



さらに最悪なことに奴とも夕飯が重なってしまった。



そして唐木田さんのキラキラした目線がうざい。



「私はそういう気分じゃないから……っ!帰って!」



勢いよく玄関を開けて、その勢いのまま戸を閉めた。



しつこい。
なんでたかが一人にここまでしつこくなれるわけ?



ほっといてって本人が言ってるんだからほっといてくれればいいのに。



深くため息をついて乱れた心の中を落ち着かせる。



落ち着いたところで玄関の鍵を閉めていないことに気付き、鍵を閉めようとゆっくりと後ろを振り返った。