乃々葉の頬はチークをしていても赤くなってるのが分かる。
顔を上げた希穂ちゃんは目に涙を浮かべていた。
「……家族に、大切な、人に、いなくなれば、なんて、悲しい、こと、言わない……で…っ!」
息切れをしながら言葉を紡いだ希穂ちゃんの目から溜まっていた涙が溢れ落ちた。
乃々葉は叩かれた頬に手を添えた。
その手は小刻みに震えている。
「……によ……何よみんなして……」
「…乃々…?」
心配して乃々葉に近付く七笑。
七笑は痛そうに赤くなった乃々葉の頬に手を重ねようと手を伸ばす。
でもその手は乃々葉によって強く弾かれて、怒りに染まった目は希穂ちゃんを睨み付けていた。
「あんたにあーしの何が分かるって言うの!?
耳がよく聞こえなくたって幸せな家庭で育てられたあんたに、必要ないと言われて家族に捨てられたあーしの気持ちなんて分かるわけない……っ!」
「乃々葉…!希穂ちゃんになんてこと……っ!希穂ちゃん!」
怒りが頂点に達した乃々葉の八つ当たりに希穂ちゃんはさらに涙を流して人混みの中へ走り出した。
こんな大勢の中に入られたら見つけられない。
「七笑!私は希穂ちゃんを追いかけるから乃々葉をお願い!」
「う、うぇ!?わ、分かった!」
唖然としていた七笑に声をかけると私は希穂ちゃんを見失う前に希穂ちゃんの後を追いかけた。