乃々葉の手が固く握られているのが見えた。



「……なによ…そっちからあーしを突き放したくせに……っ」



乃々葉の呟きはあまりにも小さな声で、近くにいた私にしか聞こえなかった。



乃々葉が立ち止まったことで男性が乃々葉の前まで駆け寄り片手を乃々葉の肩に置いた。



「…母さんがな、病気で今入院してるんだ!
今度大きな手術をするんだが、それには輸血が必要で…!

だが母さんの血液型が特殊で提供者がいない状態なんだ。
でも乃々葉、お前は母さんと全く同じ血液型で……!

乃々葉!頼む!母さんの手術を成功させるために……っ!」


「ふざけないで…!」



今まで俯いて話を聞いていた乃々葉が勢いよく自分の肩におかれた手を払いのけた。



驚いて乃々葉を見る男性を乃々葉は嘲笑うかのように見下ろしている。



「母さん母さんってうるさいのよ!
あーしはあんな奴、母親だなんて思ってないから!
戸籍上母親ってだけでしょ!?

……てか輸血が必要なくらい大きな手術するなら、しなくていいじゃない。
あんな奴とっととくたばればいいのよ。
そしたらあの世でだーいすきな心音(ここね)と会えるじゃない」



私は乃々葉の過去に何があったかは知らない。



何があったとしても誰かのことを死ねと言うなんて許せなかった。



しかも生きるために片足を失う決断をした七笑の前でそんなこと言うなんて……っ



「乃々……っ!?」



私が出るよりも早く乃々葉の前にやって来て、乃々葉の頬を思いっきり叩いたのは希穂ちゃんだった。