「……ちょっと。いつまでそんなめんどくさいやりとりしてるわけ?
こっちはずっと待ってるんだけど」


「乃々ちゃん、言いすぎ」



七笑と恵司さんの背後に視線を向けると、石垣に背中を預けてりんご飴をかじる乃々葉と苛立つ乃々葉を宥める希穂ちゃんがいた。



乃々葉は白地に赤やピンクの派手な花柄の浴衣に赤い帯、希穂ちゃんはひまわり柄の浴衣を着ている。



というか今待ってたとか言ったけど、なんで既にりんご飴食べてるわけ?



それ食べてる時点で待ってないよね?



言い返してやろうかと思ったら小走りで希穂ちゃんが私の前までやってきた。



「美瑚ちゃん、浴衣、かわいい」


「あ、ありがと……ありがとう」



素直にお礼を言ってからこの前学んだありがとうの手話を思い出してもう一度、今度は手話をつけて言った。



手話を使ったら希穂ちゃんの目がさらに輝いた。



「美瑚ちゃん、手話、できるの……!?」


「まだこれしか出来ないけどね?」


「それでも、嬉しい」



たった一言の手話を使っただけでこんなにも喜んでくれるなら少し学んでみようかな。