薄汚れた壁。

切らずにいるから伸び続ける木のツルはとても不気味。

カーテンを閉めきり、光が外に出ないこの家は周りから、「お化け屋敷」や「殺人があった家」と言われている。

数年前まではもっときれいな家だった。

壁は白く、花を置いたりして、今では想像できないようなきれいな家だった。

「ただいま」

静かにドアを開け、心の中で呟いて、自分の部屋に行こうとゆっくり歩く。

その瞬間、携帯がブーッとなってリビングにいるお父さんは反応する。

これは駄目なやつだ。

「遥(はるか)、帰ってきたのか?」

こっちに向かって歩いてくる足音がする。

ゾッと鳥肌がたって、頭のなかで「逃げろ」と言葉がリピートされる。

けど、体は動かなくて、声も出ない。






前は違った。






お父さんが私の目の前まできて無理矢理腕を引っ張ってリビングに私を連れていく。

「離して!!」

ふと三人家族だったときの写真が目に入る。

数年前、両親は離婚し、お母さんは私を置いて家を出ていった。

そこからお父さんは乱暴になった。

「お前なんて居なければよかった」

と、降り下ろされる拳。

口のなかに広がる鉄の味。

痛い。辛い。怖い。

そんな言葉が頭のなかでぐちゃぐちゃに絡み合う。

逃げなきゃ。

私はお父さんの不意をついて、リビングを抜け出す。

ローファーなんて履いてる暇ないから私はローファーを手に取り、靴下だけで外に飛び出す。

後ろからお父さんが追いかけてくる。

逃げなきゃ。逃げなきゃ。

何度も転びそうになってはまた走り出す。

そうしているうちに、自分の家から遠いところにある人気の少ないところに着いた。

後ろからお父さんが来る気配はない。

私はまた近くにあった公園のベンチに座る。