「ここがこれから遥に住み込みで働いてもらう家だよ」

零はその家に背を向けて、大きく万歳みたいなポーズをした。

「なんか普通だね」

どこにでもある一軒家を見て呟いた。

住み込みで働くというから、お金持ちの家のメイドとかそんな感じかと思ってた。

「言うと思った」

今度は両手を銃のように構えて私を指差した。

その後、ニコッと笑う。

「けどね、きっといい経験になると思うよ」

「断言はしてくれないんだね」

予想外の返事だったのか、零は目をパチクリ開けて吹き出すように笑った。

「あら、零ちゃん?」

突然後ろから声がして振り向くと買い物袋を肩から下げた女の人が立っていた。

零の知り合いなのか、ちゃん付けで呼ぶあたり、仲がいいのだろう。

「ちゃん付けで呼ばないでくださいよ…

あ、紹介するね。この家に住んでる秋さん。」

「遥です」

住み込みで働きたいと思い、来ました。と続けて言うと、秋さんはクリスマスプレゼントを目の前にした子供のように目を輝かせた。

「助かるわ〜!さあ、入って!」

秋さんの後に続いて、家の中に入る。

かすかにするバニラの匂い。

綺麗に整えられた靴。

花瓶に入っているピンク色と白色の鮮やかな花。

しっかりしている人なんだな。

私は脱いだ靴を端に寄せた。