「その後もちろん救急車で運ばれてさ。
でも傷はそこまで深くなかった。
多少は縫ったけどそれだけで済んだんだ。
でももう少し深かったら心臓に当たって
いたかもしれないくらい危ない状態だった。
その後はね…俺にとっても悲しい出来事
が起きたんだ。もちろん。その事も覚えてない。」

俺は今すぐにでもこの記憶を消し去りたいのに
いつまでも赤い海に横たわる菜穂の顔が
脳裏に焼き付いて離れなかった。

「菜穂は学校なんか行けずにずっと家に
引きこもってた。俺はたまに会いに行ったけど
学校に行くのが怖いって言って行かなかった。
1年の12月辺りかな?俺はいつも通り家に行ったんだ
おばさんは病院に行ってたんだけど。
チャイムおしても出てこなくて鍵も閉まってなかった。
おかしいと思って菜穂の部屋に言ったら…
手にカッター持っててさ。自殺しようとした瞬間だったんだ。」

環はありえないと言うような顔で聞いていた。

そうだよな…ありえないよな?

でも俺は話を続けた。

「俺は止めた。手首を掴んで止めた。
でも…カッターを持った手は止まらなかった。
そのまま手首に当たって気を失った。
その時の衝撃で記憶を失ったらしい。」