十六世紀末の話だ。この果てしなく広い宇宙の彼方から遥々やってきた、おっきな彗星。それが、何の因果か地球の引力に捕まって、それで微妙な位置関係を保って地球の衛星になったらしい。月と、さらにその遠くで周回している星。それが、とうとうバランスを保てなくなって地球に落ちてくるんだってさ。
『グリム・リーパー(死神)』と名付けられたそいつは、名前通り本当に人々に死を与えに来た。

「随分と冷静だね」
「いや、だってさ、現実味がないもん」
世界の終わりなんてさ。私はそう言ってカラカラと笑い声を上げる。ずっとそうだ。夢を見ているみたいな、ほわほわとした感覚。これは夢か現か、判別のつかない微睡みの中。
「それでも、前々から学者は警告してたぞ」
本当に、奇跡的に釣り合っていただけだから、何かが起こったら確実にそのバランスは崩れる、と。
「この間の彗星。それが原因だね」
またしても、長い長い旅の中で、ふらりと地球の付近に寄ってきた彗星。テレビの中では世紀の天体ショーなんて報道していたけど、事実アイツは世紀どころか四十六億年の歴史に幕を下ろすショーを開いてくれた。
「素晴らしいね」
幼馴染はそう言って窓の外を見る。私もつられてチラリ。空には、徐々に大きくなっている黒い点。
「……何が?」
「だってさ、この目で世界の終わりが見れるんだよ? 興奮しない?」
「しないしない。ほんとお前わかんないや」
もう十年以上すぐ近くにいるのに、こいつの思考がさっぱりわからない。これはスペックの違いか、そうなのか。この万年学年一位め、どうせ私は馬鹿だよこんちくしょう。
部屋には心地よい沈黙が落ちる。背中合わせに座り、二人で空を見上げていた。終焉の時は刻々と近づいてきている。