「歌…。ロイの歌、また聞きたいな」
暫く一人回想に耽っていた私は、ロイが口ずさんでいた歌を思い出した。
不思議な歌詞に、悲しくも美しい旋律。
そういえば出会ったあの日以来、一度もロイは歌を歌っていない。
私が頼まなかったというのもあるのかもしれない。
ロイは私の言葉に驚き半分、戸惑い半分といった様子だ。
しきりに唸り、考えている。
「あ、無理なら大丈夫なんだよ?」
私が困ったように笑うと、ロイは首を横に振った。
「否…その、なんていうのか……。
――歌いたくないわけじゃないんだ。ただ、僕はあの歌を知らないんだ」
歌を知らない…?
歌っていたのに?
私は訳が分からなかった。
「知らない歌……歌えるの?」
私が追求すると、ロイは困ったように髪を弄った。
ロイの白い髪がふわふわと踊る。
「うん――。何故かはわからないけど…あの時はいつの間にか口ずさんでいただけなんだよ。
僕の中に刻まれた詞たちが勝手に口をついて歌になったというのか…」
そこまで言うとロイは首を傾げ、また考え事を始めた。
空は夕焼けに染まり始めていた。