私は走っていた。
ただひたすらに。
別に何か恐ろしいものから逃げているわけでもなく、走りたいという衝動に駆られたわけでもない。
私には目指す場所がある。
このセピア色の森の景色をのんびり眺めている暇すらも惜しい。
確かに美しい森なのだけれども、此処はどこか寂しくて悲しくなるから尚更。
とにかく森をひた走った。
急ぎすぎて、焦りすぎて足元の小石にすら気が付かない…。
気付いたときにはもう遅し……。
「うぎゃーっ」
間抜けな声を発しながら私は頭から前に倒れた。
手に持っていた小さな籠も放り投げてしまう。
手作りのクッキーは華麗に宙を舞い、私から離れた地点に着地した。
袋で包装しておいたのが幸いだろう。多少割れただけで済んだ。
ゆっくりと立ち上がり、服に付いた土を払った。
ズキっと痛む額を指で触れると擦り剥いたようだ。血が少し出ている。
「あーあ…
私って本当間抜けだ」
セピア色の森の中、鮮やかな血の赤はよく映える。