「だけど…」

マキヨはシャツを手に取ると、
「結婚って、何の意味でするもんなんすかねー」

ふと思い出したと言うように呟いた。

「えっ…そりゃ、相手のことが好きだからするものではないかと」

そう答えようとした愛香だったが、マキヨの様子がどこか寂しげなことに気づいた。

「あの、どうかしたんですか?」

愛香がそう声をかけたら、
「マキ、本当のことを言うと“結婚”とか“恋愛”とか“つきあう”とかって言う意味がよくわかんないんすよー」
と、マキヨが言って手に取っていたシャツを戻した。

「まあ、何つーか…」

マキヨは人差し指でポリポリと頬をかいた。

「簡潔に言うと…マキ、“お父さん”と呼ぶ存在の人がいたことがなかったんすよー」

エヘヘと笑いながら、マキヨが言った。