宗に見つめられたまま固まってしまったあたしの耳に宗のピッチの音が鳴り響く。



「悪い。出ていい?」


「どうぞ」



その音でやっとあたしの体が解放された。



「わかった。すぐに行く」


宗の優しい声が向けられている電話の相手はきっと宗の大切な人だろう。



「カナ。ごめん。今日は帰るよ」


「うん。わかった」


「話が何も出来ていないから、また来てもいい?」



立ち上がった宗は遠慮気味にあたしの顔を覗き込んだ。



「もちろん。今日くらいの時間ならいつも家にいるから」



「わかった」



玄関まで宗を見送ると、宗は足早に雨の中へと消えていった。



その背中を思わず引き止めてしまいそうになる。


あたしをここから連れ出して。


あの頃にあたしを連れて行って。


伸ばしかけた手を……


出かけた声を……



あたしは必死に制御した。