「やだな……完全に私、振り回されているよね」

いつ来るかわからない彼からの連絡を待ち続けているのだから。

深い溜息を漏らし、スマホの画面をオフにしたとき――。

「なにに振り回されているわけ?」

「わっ!?」

気配もなく背後から聞こえてきた声に、身体は過剰に反応してしまった。

スマホをギュッと握りしめ振り返ると、給湯室の壁に寄りかかり立っていたのは海斗だった。

「ちょっと海斗、驚かせないでよ!」

心臓に手を当てると、バクバクいっている。

「悪い悪い、まさかそこまで驚くとは思わなかったからさ」

謝っているけれど、顔はとても謝っているように見えない。むしろしてやったり顔だ。

絶対私を驚かせようと思って、気配を消して入ってきたな。

長年一緒にいるからこそ分かる。海斗はそういう奴だってことが。


隣に並んだ彼を睨んでいると、ちょうどお湯が沸き火を止めた。

「それで? 美弥が振り回されている相手って、南さんなわけ?」

「なっ、なに言って……っ!」