「ここのケーキ、食べてみたかったんです」


南さんが買ってきてくれたのは、頻繁にテレビや雑誌に取り上げられる、有名なパティシエが経営するパティスリーのもの。


都内の一等地にあり、連日行列で午前中には売り切れてしまう人気店だ。

「本当? ならよかった。実はここのパティシエとは知り合いでさ。特別に作ってもらったんだ」

特別に!? わざわざ!?

ギョッとしてしまい、思わずケーキが入った箱と南さんを交互に見つめてしまう。

「ん? どうかしたの、ミャー」

「あ……いいえ。えっと、どうぞ」


横にズレて、南さんを招き入れると、彼は小声で「お邪魔します」と言うと、静かに居間の方へと向かっていった。

私も家に上がりケーキを冷蔵庫にしまい、今度こそ料理の続きに取り掛かる。


驚いちゃったけど、南さんはあのミナミ自動車の御曹司。顔が広いのは当たり前だし、もっとすごい知り合いの人が沢山いるのかもしれない。

ケーキひとつで住む世界が違うっていう現実を、突きつけられた気分だ。