話しかけたいと思ってもきっかけが掴めず、ハンカチを握りしめていた。
「はぁ、また一年終わるっつうの」
「……関野、遠く見てるところ悪いんだけど今日ノート提出だから頂戴?」
頬杖を付く私の前にまだ立っていた彼の目的はそれだった。
少し椅子を引いて、ガサゴソと机を漁るとノートを渡した。
「はい、どーぞ」
「ありがとう」
にっこり笑って立ち去る。
その姿を見てから私はゆっくり立ち上がった。
高校3年生も残り数日。
私は廊下の窓から蕾が膨らむ桜の木を見て名残惜しそうにそんはことを思った。
あと数日しかない。
卒業式の後はもう学校にも来ないのに。
卒業なんてしたくなかった。
廊下に出来た自分の影を見て「意気地無し!」と踏む。
たった一言でいい。
ハンカチを返せればそれでいいのに。
上履きがキュッとなって、足を止めると視聴覚室に着いた。