「ここ…?」



「うん。ここに教科書を忘れた」





小さな声でそう言うと、机の下の棚から教科書を手に取った。




ここは私がその前に使っていた席。



だからこの矢印は……





「馬場くん!去年!ハンカチを誰かに貸しませんでしたか?」





「ハンカチ?」






首を傾げる彼に心が折れそうになる。



違ったかもしれない。



どうして彼だと思ったのかも説明出来ないのに。




「違いますよね…はは」




「…昔幸せそうに笑っていたクラスメイトの女の子が駅で泣いた。



彼女は彼しか見ていなかったのに、急に一人になったように小さくなった彼女は止まらない涙をこぼしていたから。


ハンカチを貸した」