その矢印に触れると、ゆっくり扉が開く。
「あ……」
まるで空気のような消えてしまいそうな彼が廊下の光を帯びて、キラキラと見えた。
「…馬場君?」
「はい」
不思議そうな顔もせずに頷いた。
「あ、あの…関野ひかりって言います!」
「関野さん。そう」
そこで会話が終わると暫く沈黙になってしまった。
ギュッと握ったポケットの中。
あと一歩前へ踏み出してみたい。
「あ、あの」
「…あの、俺忘れ物して取りに来たから」
被さるように言われて、思わず口を紡いだ。
かたんかたんと近付く馬場君は私のそばで足を止めた。
「ここ、ちょっといい?」