あの出来事をきっかけに、松岡からよく電話がかかってくるようになった。
私の電話番号は、シュンさんから聞き出したようで。
シュンさんも『松岡なら安心だから』
と言う事で教えたようだった。
実際、会っても陽気で、楽しい会話をしてくれて、沈みがちな私の気持ちを明るくしてくれるの。
夏休みも後半…に差し掛かる。
ユキから、花火を見ようと言う誘いメールがあった。
メンバーは、平田と松岡。
シュンさん夫婦は、お盆と言う事もあり、里帰り。
何故…松岡が一緒なのかと言うと、シュンさんの代わりのボディーガードらしい。
今の所、何にもないんだけどなぁ。
シュンさん夫婦の心配症は、今に始まった事じゃないけどね…。
カズキもこのぐらい居てくれたらいいのになぁ。
松岡が車で行こうと申し出をしてくれたのだが、混雑を予想して、結局地下鉄で行く事になったのだ。
花火を見ると言う事もあり、私とユキは浴衣で行く事にした。
だって、せっかくの花火だよ?
気分出さないとね!
私は、淡いグリーンの蝶々模様の浴衣を、お母さんに着せて貰い、髪をアップにまとめて行く事に。
家を出る途中、メイクした顔をお母さんに、見られたけど、花火大会だから?
それとも気がついてないのかな?
何も言わずに笑顔で、送り出してくれたのだった。
待ち合わせ場所に、私が一番乗りをした。
時計に目をやると17時45分。
18時までには、15分ほど早かったみたい。
待ち合わせ場所について、すぐにユキがひょっこり姿を現した。
「お待たせ~」
足早に下駄をカポカポと鳴らし、黒い浴衣で花火の模様が描かれた、ユキらしい大人っぽい浴衣を来ていた。
「わぁー!ユキ素敵だよ。」
「舞こそ可愛いよ」
「平田もこれでメロメロだね?」
「あら!失礼ね。
彼は、いつでも私にメロメロよ」
そう言って二人で笑い出してしまった。
そうこうしてるうちに、予定の時効に。
まだ来ない二人を、キョロキョロ探してみる。
すると前方から、平田と松岡の姿を発見!
私達は大きな声で、手を振っり合図をしようとしたその時!
「みぃーつけたぁ。」
頭に何かが当たったようで衝撃が走った。
舞…
そばにいてやれなくて
ごめんな…。
俺・・バカだから
肝心な時
いてやれなくて…
舞…
どんな姿でもいい
どうか…
どうか…
笑っていてくれ…
-----------------………
「ん…」
鈍い痛みと共に、私は
目を覚ました。
ここは…
どこなんだろ…?
見渡すと、何処かの
倉庫のようだ。
湿っぽい、土の臭いがする。
すぐ隣には、ユキが意識を失って横たわるている。
時々、何かで殴らた頭がズキズキとうずいていた。
瞬間私は、拉致されたんだと悟った。
辺りを見渡すと、まだ誰もいない。
「ユキ…ユキ…起きて!
起きて!」
声を殺しながら必死で、ユキを揺り起こす。
「ユキ…お願いだから、目を覚まして」
「ん゛…」
ユキは、かろうじて意識を取り戻したようだ。
「ここは?」
ユキも頭を殴られたらしく、頭を摩りながらゆっくり体を起こした。
「わかんない…。
でも、逃げないと。
やばい感じだよ。」
「そうだね。」
浴衣を直しながら、辺りを見渡し始めている。
「平田に電話しなきゃ」
そう言って辺りを見渡すけど、私も、ユキもあるはずの携帯が…
ここにはなかった…
私達はゆっくりと、顔を見合わせる。
音を立てて、青ざめるのをはっきりと感じた。
私たちは、出口へと急ぐ。
「あった!あれだよね?」
ユキが指を指す。
その扉は鉄でてきていて、開けるのに一苦労の重さ。
私たちは、恐る恐る、顔を覗かせる。
見渡すと、辺りは暗く潮の香が辺り一面に、漂っていた。
街灯もなく、波音が小さく静寂な闇を包んでいる。
「よし!行くよ。」
小さく私に振り向き合図。
その瞬間だった。
カポン!
あ…
そう、私たちは下駄を履いていたのだ。
その音を合図かの様に
左手方向から強い光りが二つ。
私たちの姿を強く照らし出す。
左手には車が一台。
右手には海。
完全な手詰まり。
ヘッドライトからは、ゾロゾロと、4人のシルエットを浮かび出している。
「鬼ごっこでもするの?」
現れたシルエット一人の男が口を開らいた。
私達は思わず後退りをする。
ザザー-ン…
波が私達二人の足元を濡らす。
いっそこのまま、波にさらわれてしまいたい…。
「どうしてこんな事するのよ!」
ユキが声を張り上げた。
「理由か?理由なぁ…。
狩りだよ。狩り。」
ひゃあ、ひゃあ。
シルエットの男達から嘲笑うかのような笑い声がもれている。
「そうだ!ゲームをしよう。狩りをより、盛り上げるためにな。」
「ルールは?」
「簡単だよ。
鬼ごっこだ!
俺達4人が鬼。
そしてお前達が逃げる。
ただ、それだけだ。」
「捕まったらどうなるの?」
「捕まったらか?
それまでだ!
ENDだ!」
ENDって…そんなわけない!
捕まったら…
確実にやられる!!
私は思わず、ギュッと、ユキの手を握った。
一瞬ユキは、驚いた表情を見せたものの、小さく小声で「大丈夫」そうつぶやいた。
「20秒やる!その間に逃げろ!にげきれた者だけが勝ちだ!
まあ、それはないけどな。」
ゲラゲラとそいつらは、声をあげて笑っていた。
「最後に聞かせて!
誰の命令?
ここの場所は?」
男は少し沈黙をした。
「いいだろ。
場所は新港だ。」
男はそれだけしか言わない。
やはり頼まれたんだ。
「秋山さん早くやりましょうよ!俺もう我慢出来ないっす。」
秋山??
その瞬間、シルエットの一人がお腹を抱えるようにうずくまった。
なにかを怒鳴り散らしていたが波に、邪魔されて上手く聞きとれない。
「よし!やるぞ!
ショータイムだ。」
その言葉と同時に私達は、全力で走りだした。
1…!
私達は夢中で走る。
2…!
「っ!!下駄邪魔!」
苛々しながら私達は下駄を脱ぎすてた。
3…!
走って、力の限り走って!
走り抜いて!!
16…!
「ハァ、ハァ、ハァ…
ユキ、お願い!先に行って!
私より、足早いから!
そして、助け呼んで!」
息が上がる。
苦しい。
17…!
「何言ってんの!?
二人一緒じゃないと駄目だよ!!!」
ユキも、苦しいそうに話しながら、私に言い放つ。
18…!
「このままじゃ。ハァ…
ハァ…二人…やられちゃう!
お願いだから。先に行って!」
19…!
ユキは立ち止まり、押し黙る。
20…!
「ユキ!!
何突っ立ってんよ!」
半泣きで私は、浴衣の袖を乱暴に引っ張った。
「出来ないよ。
そんな事…。
私・・カズキになんて言うの?
なんて言い訳するの?」
涙を堪えながら私に、ユキは食いついた。
その時だった
「ウサギちゃんはどこかな?」
あいつらだ…
あいつらが、もうすぐ来る。
「こんな時に、カズキの話しなんかしないで!
カズキなんて、どこにもいないじゃない!
いつも私の側になんて、いないじゃないのよ。」
「…舞…。」
「今、側にいない人の事はどうでもいいのよっ!!
じゃあ、平田はどうなるの?
平田と結婚するんでしょう?」
ユキは押し黙ったまま、
ギュッと唇を噛み締めていた。
「わかったら、早く行って!私も諦めないから。」
ユキも納得したのか、ゆっくりと頷き、再び走りだした。
「ひゃっほーい!」
背後から奇声が聞こえる。
「ウサギちゃん。発見!」
その言葉と同時に、私の袖が強く引っ張られ、私は大きくバランスを崩し、地面に叩きつけられた。
「舞--!!!」
気付いたのかユキが振り返り叫んでいた。
「ユキ!!行って!」
もう一度立ち上がろうとするが、私は両足を押さえつけられて上手くたちあがれない。
「必ず助けに戻るから!」
お願い!!
神様!!上手くユキだけでも逃げきれて!
「無駄な抵抗やめろよ。
あいつもすぐに、喰われちまうから。」
見知らぬ男は、ヘラヘラ笑い私の上にまたがっていた。