神様、これは何のバツですか…?
私が何かしましたか…?
ただ一人の男を愛してしまっただけなのに。それすらも許されないのですか?
「みっちゃん綺麗ね」
「それはお姉ちゃんでしょ」
ウエディングドレスを身に纏い、女神のように微笑む彼女は誰が見ても綺麗だと讃えるだろう。
そのくせ、ただよそ行きのワンピースを着ただけの私を綺麗だと言う姉に何の嫌味だと言いたくなった。
今日、姉は結婚する。
「葉月、綺麗だよ」
_____…私の想い人と。
ずっと大好きだった幼なじみ。
隣の家に住む彼は、昔から姉に想いを寄せていた。
そんな彼の想いに気付かない姉にどうしようもない苛立ちが募り、利用しても良いからと関係を持ちかけたのは私。
やっと彼の想いが成就して、結婚すると聞いた時には胸が張り裂けるかと思った。
「みっちゃんの顔見てるだけで泣いちゃいそう」
「なに、言ってるの」
「葉月、式はこれからなんだぞ」
「うん、そうよね…」
両手を握り占め、緊張しているのかソワソワしている姉を見ていると、息が苦しくなる。
姉のことは大好きだし、大事に思っているのに、
この二人が並んでいるのを見るだけで胸が詰まりそうだ。
彼の視線は姉に釘付けで、わたしにそれが向けられることはなくて。
『美月、綺麗だ…』
あの夜、彼が私だけに向けて言い放った言葉をもう一度聞きたいと願う。
姉の代わりでも良かった。
ただ、好きな人に抱かれたかった。
それがどんなに虚しいことだと分かっていても…。
あの時間は今までで一番幸せだった。
「新郎様は準備をお願いします」
「あ、はい。じゃあ先に行って待ってるから」
「ええ、後でね」
「……」
呼ばれた彼が入り口のドアへ向かう。
その時、彼と私の視線が交わった。
「……っ、」
それは一瞬だったと思う。
きっと3秒にも満たなかったかも知れない。
だけど、私にはとても長く感じられて。
一度深く閉じられた彼の瞼が、微かに震えた気がした。
そうして、まるでスローモーションのようにゆっくりと閉まるドアを眺めながら、私は目を閉じた。
何も見えない。
彼の顔も、姉の顔も、何もかも真っ暗で、
もしかすると、これからずっとそうなのかもしれない。
目を開けているのに、何も見えないまま時が過ぎていくのかもしれない。
「みっちゃん?」
「……大丈夫、何でもないよ」
心配そうに私を見上げる姉にそう答えると、彼女は安心したように笑った。
人を疑うことを知らない真っ白な姉。
私が彼に想いを寄せているなんて思ってもいないだろう。
きっとこれからもずっと。
______……姉が気付くことはない。
「新婦様もお願いします」
「はいっ!どうしよう、みっちゃん」
「お姉ちゃんなら大丈夫。落ち着いてね」
「う、うんっ。ちゃんと見ててね」
「分かってるよ」
「それじゃ、行ってくる」
「うん…」
______……行ってらっしゃい。
背を向ける姉に、声にならない声でそう呟いた。
今日、姉が結婚した。
___…私の想い人と。
姉がバージンロードを歩く中、私に向けられた彼の視線。
「……」
「……」
誰かが気付くことはない。
一生バレることもない。
____…それは彼と私の秘密の視線。