季龍さんは苦笑すると、また悲しげな目をする。なにかを失った目だ。

「俺たちは元々関原っていう組にいた。そこの組長の息子、若頭ってやつだ。永塚に来たのは3年前。俺が中学1年、梨々香は小学生だ」

「…」

語り始めた言葉に、以前源之助さんから聞いたことを思い出す。

『…季龍と梨々香と、よく話をしてやって欲しい。あの子達はたくさん傷ついておるから、心配で死ぬにしねんのだ。…キミなら季龍の隣に立てるだろうから』

傷ついてるそれは、過去の話?

季龍さんが話そうとしているのは、傷ついた過去の話なの?

「俺たちは逃げ出してきた。あいつから逃げ出すために」

「…“き、りゅ………さん”」

「ここいる若いやつらのほとんどは俺たちに着いてきたんだ。ある意味、反逆みたいなもんだな」

どうして動かないの?なんで声が出ないの?

このまま話させちゃいけない。

このまま、思い出させちゃいけない。

止めないといけないのに、止める術がない。

抱き締められる。顔が見えなくなってしまう。