「…」

声が出たら、伝えられるのに。

無理にして話してほしくない。悲しそうな顔をしてまで今話してほしくない。

いくらでも待つから、話していいと決意できた時に話してほしい。こんな、季龍さんの気持ちを無視して話をする必要なんてないんだから。

視線が重なる。季龍さんの目は、覚悟を決めたように危うげな光を見せる。

肩に回った手に力がこもる。時間が過ぎるのがやけに遅く感じた。

「…こんなこと、聞かせる必要はないのかもしれねぇ。…でも、お前には知っていてほしい」

「コク」

「…単刀直入に言えば、もうすぐ抗争が始まる。この前の比じゃねぇ、組同士の潰し合いだ」

「…」

あの時、季龍さんの幼馴染と名乗る男の子が来たときの憶測が当たってしまった。しかも、私が想像していたよりずっと重大だ。

季龍さんの顔が歪む。頬を撫でてくれる手は温かいのに、どこか遠い。

「2度も守れなかった奴が、守ると誓っても信用できねぇよな」

「フルフル」

違う。そうじゃない。怖いんじゃない。ただ、誰かが傷つくのを見たくないだけ。失うかもしれない恐怖から、目を背けられないのが怖いだけだ。