「僕は女を避けていない。機会さえあればキスしたいし……」

思わず願望が漏れる。

「キスねぇ……」

なぜか笹口が美山の唇をジッと見つめる。

「そんなに深く考えてするものなのか?」

おもむろに美山の手首を掴むと、グイッと引き寄せる。
そして、あっと思う間もなく……笹口が美山にキスをした。

「なぁ、こんなふうに何てことないぞ」

バッチーン。盛大な音が辺りに響く。
うわぁ、お見事!

左頬にクッキリ付いた手の跡。
何が起こったのかと目を見開く笹口。

「……哲ちゃんのバカァァァ!」

湯でタコのようになった美山が瞳いっぱいに涙を溜めてワナワナ震えている。

「えっ? あっ、何だ」
「……哲ちゃんなんか、大嫌いだ!」

捨て台詞を残して美山が走り去る。
その後ろ姿を見送りながら、僕はポツリと呟く。

「……お前、本当に馬鹿」

茫然自失の笹口を残して僕もその場を立ち去る。
真っ青な空にプカプカ浮かぶ離れ雲一つ。

美山もショックだったろうが、僕もショックだ。
これでキスをしたことがないのは……僕一人かぁ。

何だか……物凄く切ない。