そして、最後のお客さんを見送ると逢沢さんの横に座る。

「マスター、どうするかな?」

叔父のトヨ子ちゃんへの気持は周知の事実だ。たいていの人が知っている。

「ちゃっちゃと告白したらいいのに」

本当、三十半ばのおっさんが純情可憐ぶってんじゃないよ、と声を大にして言いたい。

僕は自宅から『逃げ込み家』に来るまでにいろいろと画策した。

まずは見合いさせず、母の仕事を失くす!
それから、トヨ子ちゃんを叔父と結婚させる。

トヨ子ちゃんと親戚になれば我が家は安泰だ。見合いの話も消滅する。
だいたい、強者の爺様はトヨ子ちゃんが結婚すれば文句ないはずだ。

だったら、叔父をけしかけようとあの短時間で目論んだのだ。
凄いぞ、自分!

なのに……何だ? あの叔父のヘタレ具合……。

「それだけ、本気で好きってことじゃない?」

逢沢さんがポツリと言う。
本気で好き……かぁ。そんな経験、まだ……ない。

クラスメイト……アイツ等は、どんな思いでキスしたんだろう?

思春期という波に乗り、ノリでキスをしたのなら、後悔しないのかな……ファーストキスなのに……。

いや男ならそんなセンチメンタルっぽい思いも抱かず、性の赴くまま勢いでやるのか? 分からん!

『春太は頭で考えちゃうからできないんだよ』

キス経験者の言葉だが、今更ながら……さもあらん。