突っ込まれる前に話を先に進める。

「でね、母さん曰く、お見合いイコール結婚だって」

固まる叔父の顔が、見る間に青くなる。

「おいおい、それ本当か? そんな時代錯誤な結婚、未だにあるんだな」

逢沢さんは、何故かネタ帳を取り出してメモし始める。
マイペースな人だ。

「それで、トヨ子ちゃんに結婚の意思があるのかい?」

それはどうなのだろう?
年中、恋をしているが……。

「分からないけど、今回の見合いは嫌みたい。母さんと抱き合って泣いてたし……」
「そりゃあ、嫌だろう。そんな政略結婚みたいな結婚」

フムフムと逢沢さんは、更にメモ書きする。
いったい何を書いているのだろう?

「……春太」と弱々しい声が僕を呼ぶ。

「……店、閉めておいてくれ」

叔父は力なく立ち上がるとバックヤードに消える。

「あららぁ、店主が居なくなっちゃあ、本当に『close』のプレート出しておいた方がよくないかい?」

ハの字に下げた眉で叔父を見送った逢沢さんが言う。

僕は「そうだね」と慌ててプレートを吊り下げ、更に、臨時休業の張り紙を貼り付ける。