―――タクシーに強引に乗せられたあの日。


「松嶋さんとはどういう関係ですか?」


突然の不躾な問い掛けに、少しムッとする。


「関係、とは……ただの取引先の書店様と出版社の、仕事上のお付き合いはさせていただいてますが」


「よかった」


ホッとした声で。
前を見据えたまま私は、あえて冷たく応えた。


何を考えているのかわからない若者に、気を許してはいけない。出方を窺おうと。


「はい?」


それなのに。


「あっ、運転手さん、そこは右で」


「えっ?いやあの、うちは真っ直ぐですが」


「帰しませんよ」


言うと、運転手さんに言うために乗り出したその身をそのまま、私に向いて。


さりげなく。
ものすごくさりげなく。


唇を重ねた。


「……帰しませんよ」