「―――あいつとは…」


ふっ、と離れた松嶋さん。


「……えっ…?」


熱い吐息が掛かる。
すぐ目の前、おでこの辺りに唇がある。


こんな近くに男性がいるのは初めてだ。


前の人には抱き締められたりキスされたり、手を繋いだこともなかったなそういえば。


本当の本当に。
そばにいただけで隣にいて横顔を眺めていられるだけで幸せだったから。


なんてオメデタイヤツ。


改めて、恋人じゃなかったのだと思い知らされた。


「……あいつに何かされませんでしたか」


「あいつ…?とは」


もどかしそうに、


「……竹下ですよ。その、つまり、…こういう…」


………もしかして、焼きもち?
まさか。


「なにも。……なにもありません」


―――本当は、タクシーを降りるとき、腕を引っ張られた。