「ごっ!!ごめんなさい!!」


慌てて突き放すように離れた私。


何が起こったのか。
何が起こっているのか。
いや、事故だこれは。


『大変申し訳ございません。しばらくお待ちください』


車内アナウンスが流れた。
何かあったようだ。まさしく事故か。


「しし、失礼しましたっ!!」


慌てて私は、別の車両に逃げようとした。
けれど腕を掴まれてしまう。


黒目勝ちの大きな瞳で、真っ直ぐに見つめる。


「…僕じゃダメですか」


「――――はい???」


「初めて逢ったときから、素敵な人だと思ってました」


周りがきょろきょろとざわつく中。
突然の言葉に耳を疑った。
何を言ってるんだろうこの人は。
いや待て。


聞き間違いだ。
もしくは、また私をからかってるんだ。


決まってる。
そうに決まってる。


私は腕を振りほどいて、逃げた。