「いてててっ!!」
隣にいたサラリーマン風のスーツ姿の中年男性が悲鳴を上げた。
「えっ!?えっ???」
「彼女に何してるんです??」
すぐ後ろに背中合わせで立っていたのは松嶋さんだった。
「ま、松嶋さん???何して……」
「現行犯ですよ。警察に行きますか」
相変わらず仏様のような笑顔で静かに微笑む。
と、
電車が急ブレーキを掛けて止まった。
「きゃあっ!?」
「うわっ…」
車内が大きく揺れ、立っている乗客の足元がふらついてバランスを崩す。
鞄を手にして中年男の腕を掴んでいたために、両手を塞がれつり革に掴まっていなかった松嶋さんは、ギリギリで踏ん張っていた。
その拍子に、振り向いていた私も足元がふらついた。踏ん張りも利かずどうすることもできず、目を瞑った。
全体重で思い切り倒れ掛かった。
―――唇が。
触れていた。