「ずっと後悔していたんだ。あんなふうに傷つけたくせに、いまは彩奈にキスがしたくてたまらない。勝手なことを言っているのは百も承知だけれど、俺、あのころからずっと、彩奈のことが好きだった」

 耳のふちに、かすれた声がかかった。

 厚くコーティングされていた気持ちが、ほろほろと崩れていく。
 啓介のまっすぐな想いは、かたくなだった彩奈の心をあっけなく溶かしてしまった。


 彩奈は体を啓介のほうに向けた。

「さっきの質問だけど」
「なに?」
「チョコレートと僕のキスってやつ」
「ああ……」

 彩奈は啓介を見上げ、まっすぐに目を合わせて言った。

「試してみないと、わからない」

 啓介はちょっと驚いた顔をして、それから真顔になり、おそるおそる指先で彩奈の頬に触れた。
 彩奈はつま先立ちをして、啓介に寄りかかりながら目を閉じた。

 好きな人と初めてしたキスは、ほんのり甘いチョコレート味だった。