『――彩奈がブスじゃないってんなら、キスしてみろよ』

 クラスでも目立つグループの男子が、放課後の教室で啓介と彩奈を囲みながら言った。
 傍らでは、啓介のことが好きだと公言している女子が意地悪く笑っている。
 いま思えば、あれはひどい公開処刑だった。

 もちろん、啓介はキスなんかしなかった。

『ばーか。ブスだろうが美人だろうが、彩奈にはキスなんてしねえよ』

 啓介はおそらく彩奈を守ろうとしたのだと思う。
 でも、彩奈は深く傷ついた。

 そして、その出来事をきっかけに、彩奈は啓介から離れる決意をした。


 悔しくてたまらなかった。
 キスを拒否されたことよりも、啓介がそういう立場に立たされたことが嫌だった。
 自分のせいで、啓介までバカにされてしまうことに、耐えられなかった。