そのとき、彩奈をじっと見ていた啓介と目が合った。
「おまえ、本当に幸せそうにものを食うよな」
よく食べる奴だと呆れられたのだろうか。
彩奈は下を向き、笑って言った。
「えっと……このケーキ、最近ちょっとハマってて」
無意識に、フォークで削り取るケーキのかけらが小さくなる。
「あのさ」
「なに?」
「ケーキと僕のキス、どっちが好き?」
上を向いたとたん飛び込んできたのは、至近距離にある啓介の真面目な顔だった。
その瞳は溶けはじめのチョコレートのように艶やかで、彩奈は思わず持っていたフォークを落としそうになった。
「な、なに言って……」
フォークを慌てて握りなおし、宙に彷徨わせながらしどろもどろに答える。
すると啓介は、目を細めてくすりと笑った。
「って、このチラシに書いてある」
啓介が差し出したのは、コンビニ袋に入っていた広告だ。
アイドルタレントの笑顔の横に、「ケーキと僕のキス……」というキャッチコピーが書かれている。
啓介はふざけてこのセリフを言ったのだ。
「啓介って、そういう冗談言うタイプなんだ。幼稚園からの付き合いだけど、はじめて知った」
彩奈は動揺した表情を見られないように、慎重に距離をとった。
食べ終わった蕎麦とケーキの器を盆にのせ、手早く台ふきんでテーブルを拭く。
扉の奥にあるキッチンに食器を運び、蛇口をひねって水を出した。
じゃあじゃあと流れる水の音を聞いても、かき乱された心はなかなか落ち着かなかった。
「おまえ、本当に幸せそうにものを食うよな」
よく食べる奴だと呆れられたのだろうか。
彩奈は下を向き、笑って言った。
「えっと……このケーキ、最近ちょっとハマってて」
無意識に、フォークで削り取るケーキのかけらが小さくなる。
「あのさ」
「なに?」
「ケーキと僕のキス、どっちが好き?」
上を向いたとたん飛び込んできたのは、至近距離にある啓介の真面目な顔だった。
その瞳は溶けはじめのチョコレートのように艶やかで、彩奈は思わず持っていたフォークを落としそうになった。
「な、なに言って……」
フォークを慌てて握りなおし、宙に彷徨わせながらしどろもどろに答える。
すると啓介は、目を細めてくすりと笑った。
「って、このチラシに書いてある」
啓介が差し出したのは、コンビニ袋に入っていた広告だ。
アイドルタレントの笑顔の横に、「ケーキと僕のキス……」というキャッチコピーが書かれている。
啓介はふざけてこのセリフを言ったのだ。
「啓介って、そういう冗談言うタイプなんだ。幼稚園からの付き合いだけど、はじめて知った」
彩奈は動揺した表情を見られないように、慎重に距離をとった。
食べ終わった蕎麦とケーキの器を盆にのせ、手早く台ふきんでテーブルを拭く。
扉の奥にあるキッチンに食器を運び、蛇口をひねって水を出した。
じゃあじゃあと流れる水の音を聞いても、かき乱された心はなかなか落ち着かなかった。