けれど、高校2年に上がったころ、彩奈の立場が微妙なものになった。
 ちょっと目立つ感じの同級生の女子が、「啓介くん、めちゃくちゃタイプ」と騒ぎだしたのだ。

 普通に仲のよい男友達として接していたつもりだったのに、彩奈は根拠のない陰口をたたかれるようになった。

 いや、根拠がないわけでもなかった。
 すらりとした啓介の隣には、彩奈のような不器量な女はふさわしくなかったのだ。

 あからさまな嘲笑。好奇のまなざし。
 それらに耐え切れなくなり、彩奈は意図的に啓介を避けるようになった。

 啓介も、なんとなく自分たちを取り巻く状況に気が付いたのか、ふたりのあいだから会話が消えた。


 それまで同じ中学からの仲間とつるんでいた啓介は、ほかの友達とも遊ぶようになった。
 彩奈は寂しく思ったが、それはそれで仕方がないと割り切った。

 いつまでも無邪気な子供のままではいられない。
 異性の幼馴染を意識してしまうのは、あたりまえの通過儀礼だ。


 高校3年になり、母親から啓介が自分と同じように東京の大学に行くと聞いたとき、彩奈は驚いた。
 それからなんとなく、情報交換と称して話をするようになり、少しずつ関係が修復されていった。

 東京に出てからは、田舎のしがらみから解放されたせいか、すっかり昔のような幼馴染に戻った。
 こんなふうに、同じ食卓でご飯を食べるくらいに。

 高校時代、啓介は遠くに行ってしまったと思ったけれど、全然違った。
 見た目はすっかり東京の人だ。
 でも、昔から持っている素朴なところも失くさないでいる。

 そんなところが、啓介のいいところだと思う。