「へぇ。川沿いでCMの撮影なんかやってたんだ」

 冷やしとろろ蕎麦を食べながら相槌を打っているのは、幼稚園時代からの幼馴染である啓介《けいすけ》だ。
 彩奈のマンションのすぐ近くに啓介の働いている不動産会社があり、仕事が終わったあと、ときどきこうして夕飯を食べにくる。

「女の子がいっぱい集まってたよ。ああいう情報って、みんなどこからゲットするんだろうね」

 啓介の傍らで、彩奈は買ってきたチョコケーキをほおばる。

 帰る途中、暑さに耐え切れずコンビニに寄ってアイスを買った。
 そしてレジのすぐにあるスイーツ棚からの甘い誘いに負けて、例のCM商品である『初恋ショコラ』をまんまと買ってしまったのだ。

「おまえって、ほんとうに影響されやすいよな」

 ダイエットしなきゃと言いつつ、甘いものがやめられない。
 そんな彩奈を否定せず、啓介はそのまま受け入れてくれる。
 だからつい、啓介の前では遠慮せずに素の自分を出してしまう。


 啓介は冷やしとろろ蕎麦の汁を、最後の一滴まですする。
 そして両手をあわせ、「ごちそうさま」と言った。
 田舎で祖父母と暮らしていたせいか、啓介はとても礼儀正しい。


 半袖シャツにネクタイ姿の啓介は、見た目はイケメンの部類に入ると思う。

 癖のあるやわらかな猫っ毛は、軽くなりすぎない程度にかっこよくまとめられている。
 くっきりした二重の瞳。
 笑うと口角が片側だけ上がり、ちょっとエロい。
 着るものもおしゃれだし、流行の店にも詳しい。
 極上のイケメンではないけれど、ちょっと頑張れば手が届きそうな男の子。そんなかんじだ。

 だが、彼女がいるという話はいままで聞いたことがない。
 地元では、かなりモテていたんだけどな、と彩奈は啓介の顔を眺める。